2013年4月14日日曜日

株式100%で運用してはいけない

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個人投資家に広く読まれている資産運用の入門書に、橘玲氏の「臆病者のための株入門」や、山崎元氏の「超簡単 お金の運用術」がある。これらの本は、資産をすべて株式で運用するアセットアロケーションを勧めている。前者は外国株式85%と国内株式15%、後者は外国株式60%と国内株式40%である。どちらも債券に投資しないが、それはお勧めできない。

両者とも「人的資本」が債券の役割を果たすので、債券に投資する必要はないとしている。人的資本とは人が将来得る収入を現在価値に換算したものである。しかし人的資本は人材育成の費用対効果などを論じるために用いるもので、資産運用で債券と見なせるものではない。これは金融工学的に完全に間違っている。

現代ポートフォリオ理論に基づいてアセットアロケーションを決めると、国内債券に大きく投資しざるを得なくなる。しかし以前説明したように、現時点では国内債券は魅力的な投資対象ではない。おそらくこれを避けようとして、人的資本という見当違いの理論を持ち出したのだろう。

株式100%のアセットアロケーションはリスクが高すぎるので、長期投資による最終リターンが下方に振れる確率が高い。そのため、リスクの低い債券込みのアセットアロケーションに負ける確率が高くなる。元本割れする確率も債券込みのアセットアロケーションより高い。

リスクの高いアセットアロケーションでも、長期投資すればリスクが下がると一般には考えられているが、それは誤りだ。長期投資すると年次リスクが積み重なって最終リターンのリスクは高くなる。長期投資によって最終リターンが期待値―期待リターンの複利―に収束することはない。

リスクの高いアセットアロケーションの危険性は、「長期投資予想/アセットアロケーション分析」で分析してみるとよくわかる。以下に示したのは日本株式40万円、先進国株式60万円で20年間運用した結果と、日本株式40万円、先進国債券60万円で同様に運用した結果だ。
[株式のみ] 日本株式40万円 先進国株式60万円

期待リターン:4.92% リスク:16.52%
元本:100万円 総投資額:0万円 期間:20年
(期待値:261.3 標準偏差:207.7 中央値:204.6 最頻値:125.3)
by 長期投資予想/アセットアロケーション分析

[債券あり] 日本株式40万円 先進国債券60万円

期待リターン:4.02% リスク:10.32%
元本:100万円 総投資額:0万円 期間:20年
(期待値:220.0 標準偏差:102.3 中央値:199.4 最頻値:164.0)
by 長期投資予想/アセットアロケーション分析

最も可能性が高い結果(最頻値)は 株式のみ125.3万円 債券あり164.0万円 と債券ありが大きく上回っている。右側の青い山が結果の起こる確率を表していて、株式のみは下に大きく偏っている。中央値は 株式のみ207.7万円 債券あり199.4万円 である。つまり50%の確率で株式のみが債券ありを2.6%以上上回る。これは悪くない。しかし元本割れの確率は 株式のみ15.3% 債券あり5.9% である。株式のみは20年運用しても元本を割る確率が15.3%もある。

このように株式100%の長期投資は最終リターンのリスクが高いため、期待通りの結果にならない可能性が高い。計算上のリスクが高いだけでなく、リーマンショックのような株式の大暴落への耐性もない。これについては別の機会にお話ししよう。

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